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「ロレックスにトゥールビヨン搭載モデルはあるのだろうか?」高級腕時計の世界に興味を持つ方なら、一度はこんな疑問を抱いたことがあるかもしれません。世界最高峰の知名度を誇るロレックスですが、そのラインナップにトゥールビヨンは見当たりません。しかし、市場には確かにトゥールビヨンが搭載されたロレックスが存在します。
この記事では、なぜロレックスが公式にトゥールビヨンを製造しないのか、その背景にあるブランド哲学から、ラベルノワール ロレックスのカスタムによって生み出された特別なロレックス ミルガウスの存在、さらには複雑機構の象徴であるトゥールビヨン 腕時計の世界まで、深く掘り下げていきます。
トゥールビヨン オーデマピゲといった名門の取り組みや、ロレックス デイトナのような人気モデルとの比較、クリロナ ロレックスに代表されるセレブリティと特注時計の関係性にも触れながら、あなたの疑問に多角的な視点からお答えします。
この記事を読むことで、以下の点について理解が深まります。
- ロレックスが公式にトゥールビヨンを製造しないブランド哲学
- カスタムメイドによって誕生したトゥールビヨン搭載ロレックスの実態
- トゥールビヨンという複雑機構の仕組みとその価値
- 高級時計におけるカスタムのトレンドと今後の可能性
公式には存在しないロレックストゥールビヨンの実態

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- そもそもトゥールビヨン腕時計とはどんな機構か
- ロレックスがトゥールビヨンを作らない理由
- 高級時計におけるカスタムという新しいトレンド
- 話題を呼んだラベルノワールのカスタム
- ベースとなった耐磁時計ミルガウス
- ムーブメントに加えられた高度な改造技術
そもそもトゥールビヨン腕時計とはどんな機構か

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トゥールビヨンとは、機械式時計が持つ弱点を克服するために生まれた、極めて精巧な複雑機構の一つです。フランス語で「渦」を意味する言葉であり、その名の通り、時計の精度を司る心臓部(脱進機やテンプ)を回転するケージ(かご)に収めた構造をしています。
本来、機械式時計は地球の重力から常に影響を受けています。特に、時計が置かれる向き(姿勢)によって、内部の部品にかかる重力の方向が変わり、それが精度に微妙な誤差(姿勢差)を生じさせる原因となっていました。
トゥールビヨンは、この心臓部自体を一定の周期で回転させることで、特定の方向にかかり続けていた重力の影響をあらゆる方向に分散させます。これにより、姿勢差を平均化し、時計全体の精度を高めるというのが基本的な目的です。
その構造の複雑さと製造の難易度の高さから、ブレゲが発明して以来、長らく一部の天才時計師のみが手掛けられる技術でした。現在では世界三大複雑機構のひとつに数えられ、ブランドの技術力を示す象徴として、多くの高級時計に搭載されています。
ロレックスがトゥールビヨンを作らない理由

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ロレックスのコレクションに、公式のトゥールビヨン搭載モデルが存在しないのには明確な理由が考えられます。それは、ブランドが一貫して追求してきた「実用性」と「堅牢性」という哲学に起因します。
ロレックスは、時計を単なる装飾品ではなく、あらゆる環境下で正確に時を刻むための「ツール」として捉えています。例えば、同社の時計には、ムーブメントの動きを裏蓋からのぞけるシースルーバック(トランスパレントバック)仕様が一切採用されていません。これは、防水性や耐久性を最大限に確保するという実用的な目的を優先しているためです。
一方で、トゥールビヨンは非常に繊細で複雑な機構です。高い技術力の象徴ではありますが、衝撃に弱く、製造やメンテナンスに多大なコストと手間がかかる側面も持ち合わせています。ロレックスの視点から見ると、トゥールビヨンがもたらす精度向上のメリットよりも、複雑化による堅牢性の低下やメンテナンス性の悪化といったデメリットの方が大きいと判断しているのかもしれません。
このように、華麗で芸術的な複雑機構よりも、日々の使用に耐えうる信頼性と機能性を重視するロレックスのブランド哲学が、トゥールビヨンを製造しない大きな理由と言えるでしょう。
高級時計におけるカスタムという新しいトレンド

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近年、高級時計の世界では「カスタムウォッチ」が一つの大きなトレンドとして確立されています。これは、既存のモデルに独自の加工を施し、世界に一つだけの時計を生み出すサービスやカルチャーを指します。
このトレンドを牽引してきた代表的な企業が、Bamford Watch Department(バムフォードウォッチデパートメント)です。彼らは現在、LVMHグループの公式パートナーとして、タグ・ホイヤーやゼニスといったブランドの公認カスタムを手掛けています。
多くの人にとって、購入したばかりの高価な時計に手を加えるという考えは馴染みがないかもしれません。しかし、他人とは違う個性を表現したい、自分の理想のデザインに近づけたいと考える時計愛好家が少なからず存在します。そうしたニーズに応える形で、ケースへの特殊なカラーコーティング、文字盤のデザイン変更、ダイヤモンドのセッティング、さらには機構の改造に至るまで、多岐にわたるカスタムが行われています。
特にロレックスは、その普遍的なデザインと高い人気から、カスタムのベースモデルとして選ばれることが多いブランドです。ただし、これらのカスタムは基本的にメーカー非公式の行為であり、一度手を加えるとブランドの正規保証を受けられなくなる可能性がある点は注意が必要です。
話題を呼んだラベルノワールのカスタム

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こうしたカスタムウォッチメーカーの中でも、特に高い技術力で注目を集めたのが、2011年にスイスで設立されたラベルノワール(Label Noir)です。彼らが時計業界に衝撃を与えたのは、これまでどのブランドも成し得なかった「ロレックスへのトゥールビヨン搭載」を実現したことでした。
匿名のクライアントからの依頼を受けて製作されたこの特別な一本は、ロレックスの歴史上、初めてトゥールビヨンを備えたモデルとして大きな話題となりました。
ラベルノワールは、単に外装を変更するだけでなく、時計の心臓部であるムーブメントそのものにメスを入れるという、極めて高度な技術を要するカスタムを専門としています。彼らの挑戦は、堅牢で実用的な時計作りを信条とするロレックスの思想とは対極にある、芸術性と超絶技巧の追求でした。
このプロジェクトは、ロレックスという完成されたプロダクトに、全く新しい価値と魅力を吹き込むことに成功した事例として、カスタムウォッチの可能性を大きく広げたと言えます。
ベースとなった耐磁時計ミルガウス

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ラベルノワールがトゥールビヨン搭載のベースモデルとして選んだのは、ロレックスの「ミルガウス(Ref. 116400GV)」でした。ミルガウスは、強力な磁場にさらされる環境で働く科学者や技術者のために開発された、高い耐磁性能を誇るプロフェッショナルウォッチです。
このモデルが選ばれた明確な理由は公表されていませんが、ミルガウスが持つユニークなデザイン、特に稲妻の形をしたオレンジ色の秒針やグリーンサファイアクリスタルといった特徴が、カスタムのベースとして魅力的に映ったのかもしれません。
ラベルノワールは、このミルガウスの外装から内部機構に至るまで、大胆な変更を加えています。
外装の変更点
オリジナルのステンレススチール製ケースとブレスレットには、ADLC(アモルファス・ダイヤモンドライク・カーボン)コーティングが施され、全体が精悍なマットブラック仕様に変更されました。時計のサイズや基本的な形状は維持しつつも、その印象は劇的に変わっています。
文字盤の変更点
文字盤もオリジナルのものを使用していますが、色はブラックに変更され、12時位置のロレックスのロゴの下には「Label Noir」の文字が追加されました。そして最も大きな変更点は、6時位置にトゥールビヨンの複雑な動きを鑑賞するための窓(開口部)が設けられたことです。
以下の表は、オリジナルモデルとカスタムモデルの主な違いをまとめたものです
項目 | オリジナル (ミルガウス 116400GV) | ラベルノワール カスタム |
---|---|---|
モデル名 | Rolex Milgauss | Rolex Milgauss 116400 LNT01HS |
ケース素材 | ステンレススチール | ステンレススチール (ADLCコーティング) |
文字盤 | ブラックまたはZブルー | マットブラック(6時位置に開口部) |
針 | オリジナルデザイン(稲妻針) | オリジナルデザインを流用 |
ムーブメント | Cal. 3131 (自動巻き) | Cal. 3131ベース (トゥールビヨン搭載改造) |
特筆事項 | 高い耐磁性能 | ロレックス初となるトゥールビヨン搭載 |
このように、ラベルノワールはミルガウスのアイデンティティを尊重しつつ、全く新しい機構と外観を与えることに成功したのです。
ムーブメントに加えられた高度な改造技術

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このカスタムの核心部分は、ムーブメントに加えられた驚くべき改造にあります。ラベルノワールは、新しいムーブメントを載せ替えるのではなく、ミルガウスに元々搭載されていたロレックス製の堅牢な自動巻きムーブメント「キャリバー3131」をベースに改造を行いました。
このアプローチは、時計が持つオリジナルのシリアルナンバーを維持するためであり、極めて高度な時計製造技術がなければ不可能です。
改造のプロセスは以下の通りです。
- 部品の撤去と追加: まず、キャリバー3131を構成する部品のうち、実に51個ものパーツが取り除かれました。そして、トゥールビヨン機構を組み込むために、新たに94個もの部品が設計・製造され、追加されています。
- 既存部品の修正: さらに、2つの既存部品には、新しい機構と連携させるための修正が加えられました。
- 振動数の変更: トゥールビヨンのケージを安定して、かつ美しく回転させるために、ムーブメントの心臓部であるテンプの振動数が、オリジナルの4Hz(毎時28,800振動)から3Hz(毎時21,600振動)へと意図的に変更されました。
これらの改造により、ムーブメントの駆動部分は完全にトゥールビヨンに置き換えられました。ロレックスが長年かけて築き上げてきた堅牢なムーブメントの基盤の上に、全く異なる哲学を持つ複雑機構を融合させるという、前代未聞の試みだったのです。この事実は、ラベルノワールの技術力が、単なる外装のカスタムメーカーとは一線を画すものであることを明確に示しています。
有名人や他ブランドと見るロレックストゥールビヨン

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- 複雑機構の雄トゥールビヨンオーデマピゲ
- 人気クロノグラフのデイトナ
- 有名人クリロナのコレクション
- トゥールビヨンはなぜ高額になるのか
- 総括:ロレックスにトゥールビヨンは存在する?カスタムモデルの真実
複雑機構の雄トゥールビヨン オーデマピゲ

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トゥールビヨンについて語る上で、オーデマピゲの存在は欠かせません。スイスの高級時計ブランドの中でも、特に複雑機構の開発において高い評価を得ている同社は、トゥールビヨンをブランドの象徴の一つとして位置付けています。
ロレックスが実用性を追求するのとは対照的に、オーデマピゲは時計製造の芸術性を極限まで高めることに情熱を注いできました。1986年、オーデマピゲは世界で初めて自動巻きのトゥールビヨン腕時計を発表し、時計業界に衝撃を与えます。これは、それまで手巻きが常識だった繊細なトゥールビヨンに、実用的な自動巻き機構を組み合わせた画期的な発明でした。
代表作である「ロイヤルオーク」コレクションにも、トゥールビヨンを搭載したモデルが数多くラインナップされています。大胆でスポーティーなデザインの中に、伝統的で複雑な機構を融合させるスタイルは、オーデマピゲの技術力とデザイン哲学を雄弁に物語っています。
このように、トゥールビヨン オーデマピゲの取り組みを見ることで、ロレックスが歩んできた道とは異なる、もう一つの高級時計の頂点の形を理解することができます。
人気クロノグラフのデイトナ

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ロレックスの中で最も複雑なモデルを挙げるとすれば、多くの人が「コスモグラフ デイトナ」を思い浮かべるでしょう。デイトナは、経過時間を計測できるストップウォッチ機能を持つ「クロノグラフ」という複雑機構を搭載しています。
このロレックス デイトナは、モータースポーツという過酷な環境での使用を想定して作られており、その設計思想はロレックスの哲学そのものです。つまり、複雑な機能でありながらも、究極の実用性と信頼性を兼ね備えています。
ここでトゥールビヨンと比較してみると、両者の性格の違いがより鮮明になります。
- クロノグラフ(デイトナ): 時間を「計測する」という明確で実用的な目的を持つ複雑機構。
- トゥールビヨン: 重力の影響を「補正する」という、精度を追求するための内面的な複雑機構。
デイトナがロレックスの「実用的な複雑さ」の頂点であるとすれば、トゥールビヨンは時計製造における「芸術的な複雑さ」の象徴と言えます。ロレックスがデイトナを進化させ続けてきた一方で、トゥールビヨンを手掛けてこなかったのは、ブランドがどちらの方向性を重視しているかを明確に示しているのです。
有名人クリロナ ロレックスのコレクション

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高級時計とセレブリティの関係は非常に深く、特にカスタムウォッチの世界ではその傾向が顕著です。サッカー界のスーパースター、クリスティアーノ・ロナウド氏は、世界有数の時計コレクターとしても知られており、そのコレクションには驚くようなカスタムモデルが含まれています。
クリロナ ロレックスのコレクションの中でも特に有名なのが、全面にダイヤモンドや宝石がセッティングされた特注品です。これらの時計は、もはや単なる計器ではなく、彼の成功と個性を象徴するステータスアイテムとなっています。
彼が所有する時計の中には、フランク・ミュラーのトゥールビヨンモデルなども含まれており、彼が複雑機構の魅力も深く理解していることが伺えます。
このように、有名人が身に着けるカスタムロレックスは、時計の新たな価値観を示唆しています。それは、メーカーが提供するオリジナルの価値に加え、所有者の個性や唯一無二性を反映させるという付加価値です。ラベルノワールのようなカスタムメーカーの存在は、こうした特別な需要に応える役割も担っているのです。
トゥールビヨンはなぜ高額になるのか

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トゥールビヨン搭載モデルが、他の機械式時計と比較して群を抜いて高額になるのには、いくつかの明確な理由があります。
第一に、その構造が極めて複雑で、構成する部品が非常に小さいことが挙げられます。トゥールビヨンを構成するケージ(キャリッジ)は、数十個の微細な部品から成り立っており、その総重量はわずか1グラムにも満たないことがほとんどです。これらの部品をミクロン単位の精度で製造するには、最先端の工作機械と高度な技術が不可欠です。
第二に、組み立てと調整に熟練した時計師の卓越した技術と長い時間が必要となる点です。小さな部品を一つ一つ手作業で組み立て、ケージ全体のバランスを完璧に調整する作業は、時計製造の中でも最も難しい工程の一つとされています。一人の時計師が、一つのトゥールビヨンの調整だけに数週間から数ヶ月を費やすことも珍しくありません。
これらの理由から、トゥールビヨンの製造には莫大なコストと時間がかかります。結果として、搭載モデルは必然的に希少性が高くなり、その価格も数百万から数千万円、時には億を超えるほどの高額となるのです。
総括:ロレックスにトゥールビヨンは存在する?カスタムモデルの真実
この記事では、ロレックスとトゥールビヨンに関する様々な側面に光を当ててきました。最後に、解説してきた重要なポイントを以下にまとめます。
- ロレックスは公式にはトゥールビヨン搭載モデルを製造していない
- その理由は実用性、堅牢性、信頼性を最優先するブランド哲学にある
- トゥールビヨンは重力の影響を補正し精度を高めるための複雑機構
- 構造が複雑で繊細なためロレックスの哲学とは方向性が異なる
- 一方でカスタムメーカーによるトゥールビヨン搭載ロレックスは存在する
- 代表例はラベルノワールが手掛けたミルガウスのカスタムモデル
- このモデルはロレックス製ムーブメントを高度に改造して作られた
- ムーブメントの部品を多数交換し振動数を変更する大改造が行われた
- 高級時計のカスタムは個性を求める層の間で一つのトレンドとなっている
- オーデマピゲはトゥールビヨンをブランドの象徴とする代表的なメーカー
- ロレックスの複雑機構モデルとしては実用的なクロノグラフのデイトナがある
- クリスティアーノ・ロナウドのような有名人も特注のロレックスを所有する
- トゥールビヨンは部品の精密さ、組み立てと調整の難しさから非常に高価になる
- 熟練時計師の技術と長い製作期間が価格に反映されている
- 今後もロレックスが公式にトゥールビヨンを発表する可能性は低いと考えられる